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 現在、TPP( 環太平洋パートナーシップ協定 )交渉における最大の焦点となっている、日本の農業だか、これまで “閉鎖的” でなおかつ “過保護” であると、しばしば諸外国の非難を浴びてきた。

 だが、東京大学大学院農学生命科学研究科の鈴木宣弘教授は、この見解に対して首を横に振る。

 「まずハッキリさせておきたいのは、日本の農産物市場はまったく閉鎖的でないということです。 それどころか一般的に “聖域” と呼ばれるコメ、小麦、乳製品、砂糖、牛・豚肉の5品目を除けば、日本の農産物の関税は野菜類が3%、生花が0%といったように、先進国の中でも極めて低い。 どんどん関税を下げていった結果、日本の農業が衰退していったと考えるほうが正しいのです」

 さらに、鈴木教授が続ける。

 「TPPの議論でよく耳にするのが、TPPという 『外圧』 によって日本の農業を変えていくしかないという指摘です。 農業を “過保護” にしてきたことで合理化が進まず、国際的な競争力がなくなった、という理由ですが、これも現実は正反対です」

 実は、日本に開放を求めている諸外国のほうが、農家への保障は手厚い。

 「例えばアメリカやカナダ、EU諸国などでは、農産物や乳製品の価格が下落すると、政府がそれを買い上げて価格を維持する制度があります。 日本にはこうした制度はありません。 加えて、これらの国々が力を入れているのが補助金を使った農家への所得補償です。 ヨーロッパでは農業所得全体の95%が補助金で支えられており、アメリカはコメ、トウモロコシ、小麦の農家だけで多い年は約1兆円も補償しています。 これに対して日本の補償は農業所得の2割を切る程度です」( 鈴木教授 )

 こうなると、日本の農業にとってTPPが致命的な影響を与える可能性のほうが高いのではないか。 鈴木教授も言う。

 「関税は下げ、政府の買い支えもなく、補償も少ない ……。 それでもまだ日本の農業は “過保護” だといえるでしょうか? むしろ長年、外圧に晒され続けて衰退しきった日本の農業が、TPPで息の根を止められようとしているのが現実なのです」