退

 農業に限らず事業というものを単純化すると、 「 売上マイナス経費 」 がプラスかマイナスかで、マイナスがずっと続く万年赤字では当然成り立たない。 民主党 「 所得補償 」 の最大最悪の問題は、 「 生産費( 人件費含むコスト )-販売価格 」 = 差損、つまり 「 万年赤字を永遠に補填する 」 制度であることだ。

 つまり、黒字を目指す当たり前の事業のあり方を否定し、むしろ赤字を国家が奨励する政策なのだ。 これでは、働かずに、経費をたくさん使い、人件費を目一杯計上して、ただ同然で売りさばいた人間がいちばん得をする仕組みになる。 農家の、いいモノを安く作って、高く売ろうとする当たり前の営業努力が意味をなさない。 品質向上やコスト削減のための技術革新、創意工夫は無用なものとなる。 真っ当な成果を出したい農業経営者の存在を無視し、“奴隷”根性を最大限誘発する。 これほど人間の努力とリターンに逆進性のある制度は、いまだかつて存在しなかったのではないか。 健全な競争原理が働かず、不健全な赤字農家だらけになり、納税負担は増え続ける。 国家公認で不正と無駄を誘発する制度である

 民主党は実際の運用において、 “戸別” といいながら農家全体( 対象となる農作物別 )の “平均” 赤字を計算するから問題ないという。 そして不正を取り締まるチェックができると主張するが、これは行政の非効率な仕事を膨大に増やすことにつながる。
 農協を通さず、農家に直接支払う制度を評価する評論家も多いがとんでもない。 代わりに民主党の支持基盤である農水省職員の労働組合 「 全農林 」 や天下り団体に無駄な仕事を割り当てるだけだ。 ちゃんとした赤字かどうか精査するためだけに、対象となる200万以上の農家世帯の帳簿を調べなければいけないのだ。
 そもそも、ほとんどの零細農家は帳簿さえつけていないという現実がある。 民主党も公式に認めている。 「 農家に聞いても、コストがどうなっているのか分からないのが実態 」 ( 参議院農水委員会 )。 実態をサンプル調査するにしても、誰を母集団に入れるかで補償額は大幅に違ってくる。 サンプルとなる対象に赤字農家が多いほど、補償額が増えるわけだから、そこに不正圧力がかかっていく。
 こんなトンデモ法案が民主党の野党時代、 “良識の府” 参議院ですでに可決されている( 07年11月。 衆議院で08年5月否決 )。 政権交代した今、衆参通過が現実視されはじめた。
 今後、どのような手法をとろうとも、何の新しい価値も生みださない不毛な政策であることをここに断言したい。 赤字補填という考え方自体が、経済活動の否定であるため、その結果として産業として農業がよくなるはずがない。
 しかも補償されるのは、食料自給率目標を達成するために、民主党が指定する 「 農作物 」 と 「 生産数量目標 」 に従う農家だけである。
 民主党は国家戦略目標として、 「 自給率を10年後に50%、20年後に60%を達成することとし、最終的に国民が必要な最低限のカロリーは、国内で全て生産する 」 ことをマニフェストに謳っている。
 民主党が提出するとみられる法案によれば、個々の農家の生産数量の設定は、市町村が行う。 本来、経営者である農家を自給率向上の目標のために働く労働者とみなしているのだ。 社会主義農場の誕生である。 農家の仕事はといえば、政府・役所の決定の下、決められた作物を決められた量をつくり、赤字を出すことだ。
 事実、小沢幹事長が前回の参院選直前に 「選挙で勝つにはに分かりやすい 『所得補償』 に政策名を変えろ」 と指示し、赤字補填であることを隠したまやかしの経緯がある。




 民主党の農政が引き起こす深刻な問題は、赤字奨励だけではない。 すでに農業で生計を立てているコメ農家や独立独歩で黒字経営をしている野菜・果樹農家の、成長発展を阻害することだ。
 実はこれこそが民主党の狙いである。 業界の経営体質が弱くなればなるほど農民の政治依存、民主党支持は高まる。
 国民に対しては、「 低い自給率 」 宣伝で食の不安を煽り、民主党の農政に期待を抱かせる。 赤字農家を保護するのも仕方がないとのあきらめの心を助長する。 農業の衰退を自ら誘導し、選挙に勝ち続けるために利用するのだ
 マニフェストによれば、所得補償はコメ、麦、大豆などの販売価格が生産費を下回る農産物を作る農家を対象としている。
 コメを例に挙げれば、対象農家数は140万戸ほどだ。 そのうち7割の100万戸が1ヘクタール未満の農家で、農業所得は数万円からマイナス10万程度だ。 これでは食べていけるはずがない。 彼らはどう生計を立てているのか?  実は彼らの総所得は平均で500万円前後あり、総所得に占める農業所得の割合は1%未満かマイナスなのである。
 彼らは役所や農協、一般企業で働いている地方の農地持ちサラリーマンなのだ。 赤字農家というより、最も高いコメや野菜を自家用やおすそ分け用に耕作するのが趣味の補助金付き家庭菜園であり、「疑似農家」 と呼んだほうが正確であろう。 農園付き持家の日本でもっとも贅沢な社会階層といってもいい過ぎではない。
 その家族や親類縁者を含めれば、100万戸が500万票を超えるような大票田になる。 小選挙区となり、都市部と比ベー票の価値が2,3倍もある地方では、一大勢力になる。 民主党が、こうした疑似農家層を所得補償の対象とする農家と定義した理由がここにある。
 民主党は 「 自民党は大規模農家を優遇して農業をダメにした。 民主党の所得補償は自給率を高め、零細農家を救うための農家限定 “定額給付金” だ 」 と主張するが、農地を持っているだけで地方の富裕層に一兆円の税金の大半が配分されるこのことをほとんどの国民は説明されていない
 零細農家は成り立たない、儲からないというが、1ヘクタールで生産できるコメはわずか20世帯分の消費量だ。 農作業時間もサラリーマンの労働時間に換算すれば、1年のうちの1,2週間に過ぎない。 単純に働いている量が少ないのだ。
 民主党の試算例によれば、その1ヘクタールで最大85万円が補償される。 零細農家と謳われる彼らの実態を知れば、非農家の納税者、有権者の怒りはおさまりがつかないだろう ある特定の職業、しかもその職業で食っているとは言えない人々に所得補償することは、たとえ合法としても、その効果もはなはだ疑わしい。
 疑似農家に税金を配っても、農業で食べているわけではないのでポケットに入れて終わりだ。 消費者のために美味しいものを作ったり、安くつくるための生産性を高める投資には回らない。 強いていえば小規模の趣味用田植え機やコンバインなどの農業機械、肥料・農薬が売れるだけである。
 この辺の構造をマーケットはよくみている。 民主党政権近しとみるやいなや、農地持ちサラリーマンを主顧客とする農機や農薬メーカーの株価が軒並み上昇した。 疑似農家は技術力向上よりも楽を求めるため、非効率な機械の使用や化学肥料・農薬の投与量も増えると見越しているのだ。
 それは 民主党が掲げる環境政策と矛盾 しているし、すでに 世界一農地面積当たりのエネルギー投入量の多い日本農業のC02排出量をさらに増やす ことになる。
 そもそも自給率向上を錦の御旗に、食料大増産を謳い、疑似農家に赤字補填するのが、所得補償の目的である。 しかし片手間の農業だから疑似農家の多くは自家用で営業をしない。 つまり、所得補償は売れない農作物を大量に生産させ、残るのは誰も食べない在庫の山 だ。
 その解決策として、国家による買い上げ である。 すでに増産分を消費者が買わないことを想定して、民主党は国家の買い上げ枠を増す法整備に余念がない。 国家備蓄の上限をいまの水準の3倍に当たる300万トンまで増やすことを目指している( 民主党農林水産政策大綱 )。
 民主党がしきりと喧伝する零細農家と大規模農家の対立構造もまったく無意味である。 大規模農家は何も儲かっているわけではない。 農業で食べていくために規模を拡大し、零細農家の何十倍も働いているのだ。 生産性を向上させ、顧客を開拓してなんとか世間並みに所得の増大を図ってきたのだ。




 他方、コメで所得の半分以上を賄っている農家は日本全国で3万戸しかない。 300万円以上を農業所得で稼ぐ。 3万戸では票田にならないから、民主党は相手にしない。 そのうち、真っ当な農家だと定義できる、コメの生産販売による所得が8割以上を占める世帯はわずか2,000戸、農業所得は1,000万円以上である( これに対して、農水省職員は21,000人もいる )。
 こうした本物の農家も自民党の補助金農政に一部依存しているが、疑似農家から農地を借り受け、利益や助成金を投資に回し成長してきた。 なかには国や農協にも頼らず、自ら営業をし、高い品質の農産物を生産する持続可能な黒字経営を実現して いる農家もある。
 実はこの少数精鋭の農家がすでに日本人の食を支えている。 日本には200万戸弱の販売農家( 面積30アール以上または年間の農産物販売金額が50万円以上の農家 )があるが、そのわずか7%にあたる販売金額1,000万円以上の農家14万戸が全農業生産額8兆円の6割を産出しているのだ。 しかも、過去5年の売上成長率は130%である。
 その最上位階層にあたる売上1億円以上の農場約5,000戸だけで、生産額の15%を稼ぎ出しており、年160%成長を遂げている。 家族農業でも、売上3,000万円以上の農家が30,000件あり、その数は販売農家の1.5%だが、生産額の実に30%を占めている。
 100万戸のコメ疑似農家を含め、売上100万円以下( 所得ではない )の農家は120万戸ほどあるが、生産額ではわずか5%しか貢献していない。
 農業は、想像以上の投資が必要な事業である。 日本の農業界で、家族経営において、最初の成功指標とされるのが家族所得1,000万円。 これを達成するには、機械・設備投資だけで露地栽培では3,000万円、施設栽培で5,000万円はかかると言われる。 2,000万、3,000万円稼ぐために、その3,4倍の1億円以上の投資をしているところも珍しくない。 畜産分野では5億円、10億円もざらにいる。
 いま意欲をもって農業をしている若者のほとんどが、両親が一定の成功をおさめている専業農家の生まれだ。 農業は経験の継承産業である。 一廉ひとかどに稼げるようになるまでには、ノウハウの蓄積がいる。 その習得に は時間と忍耐がいるが、農家出身者は耕された農地や優れた技術を親から無償で提供される。 親が築いてきた信頼や取引先も継承できる。
 彼らの成長こそが日本農業の未来を創る。
 政治が、疑似農家にウェイトを置いた所得補償を実施するとどうなるか?
 まず、農地の“貸しはがし”が起こり、将来有望な専業農家の経営を圧迫する。 疑似農家は貸す地代よりも、己が耕作したほうが国の補償で身入りがよいとなれば、農業を本業とする農家から農地の返還を求めるようになるからだ。
 専業農家は疑似農家がいずれ止めるだろうことを見込んで、設備投資を行い、スタッフを雇ってきた。 生産資源である農地が激減すれば、成長はおろか自活の道さえ閉ざされる。 黒字の維持が難しくなり、赤字に陥る。 借入金の返済も滞り、廃業を余儀なくされる。
 加えて、所得補償により底上げされる農業収入は、専業農家にとって地代・農地価格の上昇を意味する。 補償利潤を裏付けに、土地の生産力に比例しない価格が形成されるからだ。 専業農家にとって、高い地代は生産費を上げ、収益を低下させる。 新規参入者にとってはコストの引き上げにつながり参入障壁となる。




 弊害はまだまだある。
 自給率向上のために行政が割り当てる、特定作物の生産数量も専業農家を苦しめるようになる。 民主主義の数の論理からいぇば、多数派の疑似農家への割り当てが増える。 自由に作って生計を立てたい農家も、国家の方針に従わざるを得なくなる。 従ったものだけが補償されるからだ。 従わなければ正味の競争力が落ちる。
 なぜなら、赤字補償された農家は、補償された分だけもらわない農家よりコスト優位に立てる。 従わない農家より安く売っても、利益が残るとなれば、プロの農家といえども国家に背くか従うかどちらが身入りがいいか、天秤にかける決断を迫られる。
 日本の農業生産額8兆円のうち、赤字補填の対象になるコメは1兆8,000億円、小麦は290億円、大豆は240億円、3穀物をあわせても2兆円に満たない。 日本農業のわずか2割に過ぎず、その市場は年に2,3%縮小している。
 対する補償されない野菜、果樹、花卉かき等の生産額は、それぞれ2兆300億円、7,500億円、4,000億円他と合計で農業市場の半分4兆円を超える成長市場である。
 縮小する2兆円弱の国産穀物市場に所得補償1兆円をぶち込めば、どうなるか。 火を見るより明らかである。 民主党の不公平な所得補償を下支えに、野菜などの成長市場に大きな歪みを与える。 所得補償でゲタを履かされた疑似農家による、野菜価 格のダンピングに拍車がかかるからだ。 コメ、麦、大豆生産で得た収入があれば、野菜専業で補助金なく黒字経営している農家より、作った野菜を安く売っても元がとれるからだ。
 所得補償の実施前のいまも、小遣い稼ぎのための破格の安売り合戦が専業野菜農家の生産を脅かしている。 疑似農家の赤字補償をすることにより、黒字農家まで赤字に陥る。
 民主党は 「 大規模なEUでさえ直接支払いによる農業の所得補償がなされているから、日本でも導入すべきである 」 ともっともらしい説明をする。 なるほど、と納得してはいけない。 実はEUと日本の補償制度は、全くの別物なのだ。
 小麦を例に説明しよう。 EUの直接支払は非常に詳細な制度であり、例外や注釈が細かく規定されているが、ここでは概略を示す。
 EUでは、農地の面積あたりで計算して補償がなされ、1ヘクタール当たりの補償額は日本円で5万円ほどだ。 20ヘクタールの農地を持つ農家でも補償金は年間100万円。 この規模の農家だと、平均的な売上げは百数十万円、利益( 農業所得 )は70~80万円ほど。 ここに補償金が加わることになる。
 EUの直接支払いの根本は、独立独歩で経営し、本業として働いている農家に向けられている。 安く売るか高く売れるか、コストを抑えられたかどうか、個人の力の差が現れるものとなっている。 ベースが黒字経営=自力で最低限の利益を生み出す力のある農家に対して、所得の底支えをしているのだ。
 一方、民主党案では、補償は生産コストに対してなされる。 日本で小麦を生産する平均的なコストは1ヘクタールで約60万円だが、できた小麦は国際価格で約6万円にしかならない。 民主党の戸別補償政策では、この差額分、54万円の赤字を丸々補償するのである。 たった1ヘクタールで54万円が補償されるのだから、労働量から比較しても、EUより法外な厚遇だ。
 ひとつ誤解のないようにいっておくが疑似農家、専業農家のどちらも悪いわけでない。 罪は、こうした歪な政策を打ち、見せ金で農家を翻弄する民主党にある。




 なぜそうまでして、自立した農家の成長を妨げ疑似農家を保護するのか。 政権を奪取した今、選挙対策だとは口が裂けてもいえない。 そこで民主党は切り札となる答えをすでに用意している。 「 食料安全保障 」 のための自給率同上である。
 「 日本は世界最大の食料輸入国で、自給率が低い。 自給率を上げないと食べ物に困る。 そうならないために、零細農家を所得補償で守ろう 」 というわけだ。
 国際社会に共通する食料安全保障の考え方は三つある。 ひとつは、国民が健康な生活を送るための最低限の栄養を備えているか。 次に、貧困層が買える価格で供給できているか。 最後に、不慮の災害時でも食料を安全に供給できるか。
 「 将来食料が足りなくなるかも、どうしよう 」 という漠然たる不安を前提に議論をしている先進国は日本だけだ。 今やメジャーになった「 自給率 」 という言葉。 これは国民に食料不安を喚起させるためのまやかしの言葉である。
 自給率とは農水省が定義した 「 国内で供給される食料のうち国産でどの程度まかなえているか 」 を示す指標だ。 一人一日当たりの国産カロリーを全供給カロリーで割って算出するが、実は世界でこの指標を使っているのは日本だけ、という事実はほとんど知られていない。
 このカロリー自給率を1%あげるため、自民党と農水省は巨額の広報予算をかけて 「 自給率キャンペーン 」 を繰り広げてきた。
 日本以外に自給率向上のために、農業を展開している国はない。 例えば、ブラジルがいくらサトウキビや大豆で生産効率が高くとも、小麦の競争力が他国に劣れば輸入している。 5倍、10倍もかかるコストを国民に負担させてまで、増産をするな どあり得ない。 そのような、経済成長に逆行する政策を政治家は立案しないし、あっても国民が許すはずがない。
 そんな金があれば、自国のもっと得意な農業分野に投資したり、一定の競争力を待った分野を伸ばすための技術開発などに使うものだ。 そうした後方支援があってこそ、農家が独立して経営発展を実現できる。 結果、雇用が増え、税収も増えるのだ。
 民主党が100%の自給を目指すとする 国内産小麦の品質は、現状、他国と比較にならないほど低い この事実を農水省と農業団体は公式に認めている。 飲食業界関係者が本音を明かした。
 「 小麦はパスタやうどんなど麺類に加工するが、たとえ 外国産小麦の半値でも国内産は使いたくない。 讃岐うどんでさえ95%がオーストラリア産小麦です 」
 長年にわたり、コメの代換えとして小麦や大豆を作るよう国が指導し、転作奨励金を累計7兆円も使った結果がこれである。 国が施行する補償制度というものが、いかに健全な向上心、ヤル気を削ぐかの見本ではないか。
 農業政策が一流、農業生産者も一流でも、自給率が減り続けることは往々にしてある。 たとえば、競争力のない国産大豆や小麦の代わりに、日本が世界に誇れる品質の果物や野菜、牛肉を増産したとしよう。 輸出も増え、農家も儲かった。 関連産業 も伸び、村も栄えた。
 なのに自給率は下がる。 果物や野菜は穀物にくらベカロリーが低く、牛肉はカロリーは高くても飼料自給率に乗じてカロリー計算されるからだ。
 米国に次ぐ世界第二の食料輸出国オランダのケースがそれにあたる。 過去30年、輸出額は750%も伸びた。 その間に自給率は72%から53%と20%近く減っている。 13%( 53%から40% )減少の日本より7%も減り幅が大きい。 自給 率がそんなに減って大丈夫?
 そんなことを心配するオランダ人などいるはずがない。 オランダの自給率を“発明”したのは、ニッポン農水省の役人なのだから知る由もない。
 それでも、「 自給率という概念が世界に浸透していないのは、日本のほうが進んでいるからでは 」 ― そう素朴に自給率論を信じたい人がまだいるかもしれない。 世界第二位の経済大国が10年以上も前から発表している自給率が、経済指標として本当に役に立つなら、GDPや景気動向指数みたいに各国が競い合って採用する。 心配いらない。 インチキだから通用していないだけだ。 世界中に溢れる知性を侮ってはならない。




 それでも自給率が支持を受ける大前提にあるのが、日本が世界最大の食料輸入国で、食料の大半を海外に依存しているという認識である。 それは本当だろうか。
 先進5ヵ国の農産物輸入額 を比べると、1位が米国の599億ドル、ドイツ508億ドル、日英が415億ドルで3位同列、フランス346億ドルという順になる。
 一人当たりの輸入量 で見ても、フランス593キロ、ドイツ570キロ、イギリス557キロに続き、日本は437キロ と、米国の163キロに次いで少ない。
 対GDPの農産物輸入比率 をみても、イギリス1.9%、ドイツ1.8%、フランス1.7%、日本0.9%、米国0.5%となっており、日本の国力に占める輸入食料負担は決して多くない。
 一方、農産物の生産額 でみると、米国の1,500億ドルに次ぐ 793億ドルの先進国2位である。 仏独英をはじめとした EU諸国のどこよりも多い。 農業大国と言われるロシア( 211億ドル )、豪州( 203億ドル )の3倍超もある。 世界でも5位の農業大国 である。
 生産量でも個々の品目でみれば、世界トップレベルのものは少なくない。 玉ねぎ世界1位、ホウレンソウ・柿3位、みかん・卵4位、キャベツ5位、イチゴーキュウリが6位など トップ10入りするものをあげるだけで、きりがない。 最大食料輸入国の汚名返上どころか、農業大国日本の面目躍如である
 政治家に会うと日本の農業生産額の世界順位を質問することにしている。 回答は、近くて30位、50位以下という答えが大半だ。 国家戦略局のトップに内定した民主党議員は80位だった。 低い自給率が頭に刷り込まれていて、産業としての農業の実力をまったく知らないまま、政策を立案していることがうかがえる。 そんな彼らが国家戦略目標としての自給率を高めようと一兆円を疑似農家に配分しようとしているのである。
 農家数減少がニッポン農業存亡の危機のように語られるが、これも誤りだ。 実は日本の農家数はまだまだ多すぎる。 農家が人口に占める割合は、先進国のなかでも、日本は突出して高い。 英国0.8%、米国0.9%、ドイツ1.0%に対し、日本は1.6%もある。 これまで国が減反などの政策によって、執拗に疑似農家を延命させ、事業意欲の高い成長農場が規模拡大する余地を妨げてきたためである。
 農業のいちばんの課題は少子高齢化・人口減少である。 日本人全体の胃袋が縮小している、市場が縮小しているということである。 需要が減る一方、生産性が上がるなか、疑似農家数が維持されれば、専業農家一戸当たりの所得は小さくなる。
 減反が象徴しているように、食料は足りないどころか過剰生産なのである。 日本の食糧廃棄率は3割に達している スーパーの過多出店によって、店舗には農産物の売り棚が拡大される一方、売れ残りロスは急増している。 流通の利益率低下が常態化し、農家への値下げ圧力が日に日に増している。
 これが今、ビジネスとして専業農家が直面する本当の問題である。 少数精鋭の専業農家でさえ供給過剰で所得が減少しているのだ。 民主党の所得補償が実施されれば、これらは負の方向に向かって加速化するだろう。