( 2009.10.17 )



―― 民主党の掲げる戸別所得補償制度をどう評価されていますか?
( この制度は )実現できません。 できるんだったら、どこか他の国がとっくの昔にやっていますよ。
―― それはコメ以外の農産品も生産調整の対象にすることが非現実的だということでしょうか。
 私は最初にその案を聞いたときから「 それは実現不可能 」 と言ってきた。 主要農産品といっても、たとえば、「 鳥取は梨 」 「 青森はリンゴ 」 「 愛媛はミカン 」 というふうに対象は際限なく広がります。 コメの生産調整だけでもこんなに大変なのに。
 まして、1年間で国民がどれだけ各品目を消費するのかをどうやって決めるんですか。 消費量は為替水準によって変わるし、BSE( 牛海綿状脳症 )みたいなものが発生したらドーンと下がる。 まず不可能だ。
 それでも無理やり目標生産量を決めたとして、これを今度は47都道府県に割り振るわけね。 青森はこれだけ、秋田はこれだけ、岩手はこれだけと。 誰がどうやって決めるの? 農政部長会議でもやるんですか。 それを今度は誰が各市町村や各農家に目標を割り振るのか? ( 民主党が言うように )生産コストと販売額の差を補助金で賄ってもらえるならば、みんな参加したいですよ。 となると、各農家の間で話がつかず、大げんかになる。 だからコメの生産調整は行き詰まった。 それを全部の品目でや れるとは到底思えません。
 それらを無理やり割り振ったとしても、農産品をどこにいくらで売ったかを誰が調べるのか? コスト面でも、農機具の減価償却、農薬代、家族労働費などを200万戸の販売農家を対象に調べるとなると、役人が何千人いても足りない。 それに、コストと販売額の差を補ってくれるなら、コスト低減のインセンティブは絶対効かない。
 さらに民主党は、FTA締結の交渉促進をマニフェストでうたった。 でも、農産物除外を米国が受け入れるとはまず考えられず、FTAが締結されれば、日本の10分の1のコストのコメ、7分の1のコストの牛肉がどっと入ってくる。 今は、BSE問題で米国の牛肉を一定以上は入れないし、コメはミニマムアクセスで処理しているから、市場からは隔離されている。 だけど、FTAを結べば、米国は日本人の好むコシヒカリやササニシキを本気で作りますよ。
 結局、所得補償によって国内生産が増えて、さらにアメリカからの輸入も増えるとなると、コメの価格は暴落します。 それを国民の税金で補填するわけです。 加えて、日本人は今の倍コメを食べるわけじゃないから、大量の余剰が発生します。 これを誰のカネで処理するんですか。 「 かわいそうな国に売ればいい 」 というのは国際社会では通用しません。
―― 民主党は、生産コストと販売額の差をすべて補償するのでなく、コストの一部を補償する「 固定( 額 )払い 」 を想定しているようですが。
 それはマニフェストとは異なるでしょう。 いったいマニフェスト選挙とは何だったのか? 私は農水大臣になる前もなった後も「 固定払いならできる。 ( コストと販売額の差額を全額補填する )不足払いはできない 」 と言い続けてきたわけです。 それにもかかわらず、彼らはマニフェストでそれを掲げたわけでしょ。
―― できないことを主張して、選挙に勝とうとしたと……。
 そう。 一種の詐欺的行為です。


調

――  そう。 一種の詐欺的行為です。
 いわゆる、生産調整の選択制( 生産調整の緩和 )を導入する以外ないだろうと思っています。
 今後も少子高齢化により人口は減り続けて、コメを食べる層はどんどん減っていく。 だから、今のコメ価格を維持しようと思ったら、もっと生産調整を強化しないといけない。 でも、そうすると財政規模はさらに増えていく。 そんな将来展望のない政策はとりえない。 しかし、1、2の3で生産調整をやめると、価格は大暴落する。 そうなると、第2種兼業農家の人たちは何の痛痒も感じないけれど、大規模で農業をやっている人たちがいちばん打撃を受ける。
 生産調整の強化も廃止もとりえないとなると、選択肢はこの二つの真ん中のどこかです。 農水大臣を辞める1日前に、いくつかの政策シミュレーションを発表しました。 その中で、必要な財政規模や予測される効果とともに、具体的な生産調整緩和の方法を提案しています。 ( 「 米政策の第2次シミュレーション結果と米政策改革の方向 」 は農林水産省ホームページに掲載 )




―― 石破さんの考えは自民党内で理解を得られなかったのですか?
 自民党の農林族の間では理解を得られませんでした。 彼らには、コメの値段が下がることそれ自体が悪だどいう発想がある。 けれど、農家の所得が増えればいいわけでしょう。
「 正直に生産調整を選択した人には、コメの価格が下がってもその何割かは補償するし、農地を貸し出せば賃料も入る 」 と説明しても、聞く耳を持たない。
 私は意識的に、「 生産調整の緩和しか選択肢はない 」 と発信してきたつもりです。 自民党政権でも民主党政権でも何でもいい。 どの政権であれ、農業者のため、消費者・納税者のためになるものを出したいと思っていたので、記者会見でも講演でも相当丁寧に話してきたつもりです。
―― 今後、民主党も現実路線に転換して、「 石破さんの改革案と戸別所得補償制度に大きな違いはない 」 と言い始めるのでは?
 そうは言わせません。 マニフェストにあのように書いておきながら、それを変えるのは一種の詐欺行為です。 民主党の中でも、「 戸別所得補償はできない 」 と言っていた人はいたはずですよ。 少し知識があればわがることです。 「 それでもいいんだ。 どうせ農家にはわかりはしないんだ。 戸別所得補償といったらみんな飛びつくんだ。 あとは勝ってから考えればいいんだ 」 と考えたとしたのなら、それはあまりにひどくはないか。 私はそんなことは絶対に許されるべきではないと考えています。