「食の偽装」 が相次ぎ、私たちの命の糧であるコメまで偽装転売される。 私は90年代から東北の山野河海の集落を中心に600ヵ所ほど訪ね歩き、土や海に生きる人びとの苦労とか汗と喜怒哀楽をみてきた。 田んぼや畑や海といった、私たちの食べ物を生み出す場所から見ていると、ずいぶん遠いところで起きた事件だと思う。

 生産現場から遠いところで、えたいの知れない人たちが、人の営みに欠くべからざる食べ物を、単なる換金するための 「物体」 として扱っている。 本来、食べ物を作る人間を支援することを職責とする人たちが、何のために、誰のためにという問いを捨て去って、 「利益があがればいい」 「効率があがればいい」 と拝金主義に走る。 市場原理のもと、農林水産省を含め官民、業界、政界がこぞって引き起こした“犯罪”だと思う。

 「コメが高い」 というコメ余りだという「安ければいい」 というだから安いコメを輸入しろという。 だが、私たちはどれほどコメやご飯について知っているだろうか。

コメは本当に高いか?。  宮城県・鳴子で市場原理とは正反対に、自主検査、自主選別をし、生産者も安心してコメ作りができるように、1俵( 60㌔ )2万4千円で食べ手が買い支えるという運動をしている。 現状の1俵1万1千円程度では農家は赤字に苦しみ、コメ作りはできないと悲鳴を上げている。 これを1万8千円に引き上げ、農業を志す若者たちの支援費などを加えて 2万4千円 とした。 1俵のコメは約1千杯のご飯になるすなわち1杯24円である「笹かまぼこ」 6分の1切れ、イチゴ1個の値段である

  この20年、農家が受けとるダイコン1本の代金は平均30円土をつくり、種をまき、間引きをして、規格外を排除して段ボールにいれて出荷し、店頭で120円から150円で売られるこの30円と150円の間に、農協や卸、仲卸と、たくさんの人と伝票が動いている

 この中間の人びとが増え“メタボリック”状態の中で、利益の争奪戦にある。 1円でも安くと生産者に 「安さ」 と 「おいしさ」 を押しつけ、 「いやなら中国から、アメリカから安いのを買う」 と追いつめてゆく。 コメも同じようになりつつある。
 しかし、日本の農業漁業の担い手はどうか。

 農業生産者はどんどん減り、昨年2月現在で312万人、漁業従事者は一昨年で21万人。 合わせて333万人と、全人口のわずか2.6%の人が4割の食糧自給率を支えているのだ。 しかも、農業者の7割は60歳を超え、4割は70歳以上である。

 食を支える人びとが高齢化し、一方で利益ばかりを追い求める企業社会の中で、食の安全が崩れてゆく。 「信頼」 なんて、どこにもなくなった。

 農水省も政治家も消費者団体も、 「管理態勢の強化」 、そして 「チェック態勢の強化」 、というだろう。 「それが消費者を守る」 と。 しかし、カネさえ払えば何でも買える、という消費社会で、管理やチェックでこの種の事件がなくなるなど、あり得ない。

 今の日本は、食料を支えている生産者の顔が見えなくなった。 今回の事件が見せたのは、 「モノ」 しか見えなくなった、 「カネ」 しか見えなくなった日本の一つの現実である。