食生活が乱れるとその人の体調が崩れるのと同じく、 国民の食の周辺が乱れてくると、 その国の社会も崩れてくる。 早い話が今の日本だ。 あちこちで若者ばかりか大人たちまでぶっち切れ、 詐欺だ、 使い込みだ、 傷害だ、 殺人だといったニュースが、 目から耳から入ってこない日はない。

 小学校の低学年からもう授業中の私語や立ち歩きなどで学級崩壊状態だという。
 馬鹿言っちゃいけないよ。 まだ10歳にもなってない餓鬼にふりまわされている大人たちっていったい何だ。 子どもに注意できない子どもを叱れない躾けられない大人たちが教育崩壊をしてきた んじゃないか。

 中学生もひどいものだ。 ある中学校では生徒のうちの約3割がすでに性体験を持っていたという。 義務教育だというのに教室には入らず、学校の周りでたむろして、暴力団まがいのおどしや恐喝をやっているのもいるという。 体だけは大人になったものだから、注意したらこっちが殺られると思って誰もが黙っている。 滑稽な中学生だちよ。 哀れな大人たちよ。 高校生に至っては、白昼堂々とくわえ煙草をスパスパ吸いながら、女の子と抱き合っている。 その高校生はもちろん、専門学校生や大学生の中にも、親からもらった黒髪を、高い金かけて茶色や金色に染めて、地べたに座って車座を決め込み、片手に携帯電話、片手にコンビニ弁当でルンルンだ。 勉強するために入ってきた、などとは真っ赤な嘘で、ナンパ目的に夏は海水浴、冬はスキーやスノーボードに行くための金稼ぎバイトで大学の講義にもめったに顔を出さない大学生。 大人の社会に目をやると、若いOLは電車の中で化粧に夢中。 無神経な、恥ずかしさを忘れた女たち。 男は男で、やれ暴力だ、それ性犯罪だ、そりゃ麻薬だ、何だかんだと大乱れ。

 日本人、みんながみんなこうではないが、こんな日本に誰がした。 とにかくこの国、乱れに乱れて、堕落の極みでございます。
 そんな国になり下がった日本だから、国の力もガタガタ低下。 国民一体になって日の丸弁当と握り飯でがんばって、高度経済成長を実現し、世界一の富める国を築いたまではよかったが、皆が浮かれて民族としての生きる知恵や基本を忘れてしまった とたんから、食い物は外国からカネで買えば楽だわ、魚だって捕るの面倒臭いから外から買うのがちょうどいいわ、ということになって、食べ物はつくらないわ、加工もしないわという堕落心がはびこってきた のである。

 そんな堕落が長く続くと、生き方にもどんどん変化が現れて、食の周辺の文化も激しく崩れていく。 農作物( 食料 )の生産活動や生産量はどんどん低下するから、食料の輸入量は逆に増加する。 そのため、年々食料の自給率が低下して、ついに今日では40%を切った のではないかといった現状である。 アメリカやカナダ、フランスなどが軒並み140%近い自給率を誇るなか、日本は食べ物の60%を外国に依存している。 かつて屈強であったこの国は、自分たちの食べ物を自分たちの手でつくっていたから強かったのである。 このままの状況が続けば、外国からの食料供給が途切れた時、日本は終わる

 国全体がこのようなありさまだから国民の食の周辺も激しく堕落に向かう。 物心がつく大切な時期に半強制的に施行される学校給食は、心のこもっていない味けない食い物なものだから、学童たちは、 「食べる」 という、人間が生きるための不可欠の原点に感動などほとんどせず、ただ口をパクパク動かして胃袋を満たしている。 学校のみならず家庭でも、近くのスーパーマーケットに行けば何でも売っているからと飯やおかずをつくらずに楽をする。 冷凍庫から出したカチンコチンの調理ずみの食い物を電子レンジでチンすれば、魔法のごとくあっという間に飯やおかずは一丁上がり。 食べられることへの感謝や食べる感動などあるはずがない。 そんな堕落の象徴的事例を2つほど述べよう。

 まず、東北のある漁村での話。 村の大半の大人たちが漁業をしており、それまでは捕ってきた魚の一部を白分たちの糧として食べていた。 ところがある時、人口800人ほどのその漁村に、小さいながらも一応スーパーマーケットといえるようなものができ、そこで魚の切り身や刺し身が売られはじめた。 すると漁師の奥さんや長男の嫁さんたちはこれ幸いとその店に行って調理ずみの魚を買ってきて楽をしはじめたという。 堕落の始まりだから仕方のないことだが、それ以後、活きのいい魚はその家の食卓から消えた。 村のみんながみんなそうしたのではあるまいが、この話を聞いたとき、とってもわびしい思いがした。

 また、農家の長男のところに嫁いできたお嫁さんが、芋の皮むきができないばかりか俎板と包丁の使い方もろくに知らない。 もちろん料理に至っては何をかいわんやの状態であったので、ある日、目に余って気の毒に思った姑が台所教育にかかったら、三日も持たずに嫁はぶち切れて実家に帰ってしまったという。 この話を聞いたときは寂しい思いがした。

 とにかくこの国の、食の周辺はこのところ堕落に満ち満ちている。 素晴らしい伝統ある日本食を軽く見捨てて、多くの人は洋風食に偏っていったばっかりに、生活様式も一丁前に洋風化を気取り、挙げ句の果ては親からいただいた大切な黒髪まで茶色や金髪に染めている。 それを見て私の友人のドイツ人などははっきりと言っていた。
 「日本人の黒髪は世界一美麗だと思っているのに、なんであんなに金色や茶色に染めてしまうのか、私たちゲルマンやアングロサクソンにはまったくわからない。 だいたい日本人があんな髪にしたって似合うはずがないよ」

 先日、なんの気もなくただボーッとしてテレビを見ていたら、驚くべき若者たちがブラウン管に現れたのでびっくり仰天してしまった。 東京・渋谷の繁華な街にテレビ会社が調理台と俎板、包丁などをセッティングして、通りかかった高校生と思える若い女性のグループやOLと見える女性たち、さらにルンルン気分のカップルなどをターゲットにして何組かに出演してもらっていた。 面白おかしき蝶ネクタイをした若いタレントが司会で、その出演者たちに生アジを一匹つまみ上げて、 「この魚の名前は何でしょうか?」 と聞いた。 するとほとんどの者が 「サンマぁ?」 とか 「イワシぃ?」 なんて答えて、正確な魚の名が言えない。 司会者は今度は 「ではヒントを差し上げます」 と言って、隠し持っていたアジの干物を一枚出したらば、 「あっわかったあ。 ヒラキでーす」。 これには笑いましたなあ。 アジの開きは 「ヒラキ」 という名の魚だと思い込んでいるひどいのがいたのだ。 次に登場した若者のカップルに、 「アジのたたきをつくってください」 と司会者が言うと、しばらく二人は考えていたのであったが、小さな声で打ち合わせしたかと思ったら、包丁を持った男性が俎板上の生アジー匹の頭をまず切り落とし、次に包丁をくるりと握り直して、その包丁の背( 切れないほう )でポンポンポンポンと力を入れてアジを叩きはじめたのであった。 頭を落とされたアジは、かわいそうに今度は叩かれたものだから、肉も腸もベトベトに潰されたり切断されて、あちこちから骨まで露出しているありさまであった。 ことほど左様な状態であったので、テレビを見ていたこっちのほうが空しくなってしまった。